Interview with Mr. Inahata of TOA Corporation

    今回は、point 0 の音響設備を手がけたTOA株式会社の稲畑さんへのインタビューです。普段はなかなか気づくことのない、奥深い「音の報せる力」について色々とお聞かせいただいた内容となっています!


    <Q. まずは、TOAさんの事業内容について教えていただけますか。>
    はい。我々は業務用に特化した音響機器のメーカーです。またpoint 0 では使われていないのですが、実は映像機器も製造・販売をしています。
    会社は今年で創業85周年となり、もともとは音の専門メーカーとしてやってきましたが、防犯カメラを中心にした映像事業も今年で36年の実績があります。

    売上シェアでいうと国内63%・海外37%と事業はグローバルに展開をしています。
    海外でいうと、例えばアジアのモスクに設置されているスピーカーの多くがTOA製です。
    しかもインドネシアでは、工場が現地に昔からあることもあり、トランペットスピーカーが「トーア(TOA)」と人々の間で呼ばれていたりもします。

    基本的には音の入口から出口、すなわちマイクからスピーカーまで一気通貫で手がけておりますので、音のことであれば何でもプロデュースができる会社と認識してもらえれば幸いです。また会社のポリシーとして、商品やシステムは手段でしかなく、お客様が求めていることは音で情報を伝えることであることを理解したうえで、「機器ではなく、音を買っていただく」ことを大事にしています。そのため会社のコアコンピンタンスも「音の報せる力」としていて、現在はハードやソフトに関わらず「音を報せる」あらゆるサービスを提供しようと努めています。


    <Q. 具体的にはどのような商品をどのような場所で、展開しているのでしょうか。>
    我々の商品が使われるのはパブリックな場所がほとんどなため、一般消費者向けの商品開発、販売は行っておりません。そのため一般の人にはあまり馴染みがないかもしれませんね。
    ただよく見ると、町のいたるところでTOAの製品が使われていることが分かると思います。
    例えば駅や空港、百貨店など、放送で音を伝えないと業務が進まない業界では多大な信頼をいただいており、かなりシェアは高いです。
    特に国内空港の放送設備の95%以上がTOA製なため、皆様が飛行機に乗る際には、必ずと言っていいほどTOAの音を聞いていただいていることになります。
    実は空港のアナウンスの前に流れる「ピンポンパンポン」の音もTOAが制作している音なんですよ。
    あの音を聞くと「あ、聞かなきゃ」と注意を向けますよね。このような音をサイン音と呼ぶのですが、電車の接近音をはじめ、様々なサイン音のデザインもTOAで行っています。
    山手線の駅の案内放送の音源も実はTOAが原盤権を持っています。

    <Q. かなり我々の生活に密接した形でTOAの製品が使われているんですね。>
    そうですね。
    エンターテイメントの領域でもTOAの商品を多く使っていただいいます。例えばクラブ・ディスコでもTOAの製品は使われていて、かつて流行ったディスコの音響も実は多くが弊社のものでした。
    また、弊社の音響がスタジアムでも多く採用をされていて、福岡のヤフオクドームや千葉のZOZOマリンスタジアム、関西の甲子園球場や花園ラグビー場などでも使われています。


    <Q. 領域も非常に広いんですね。>
    と言いながらも、売上の主体は建物内において火災発生時に避難誘導を行う非常用放送設備です。
    ここ丸の内エリア一体の非常用放送設備もほとんどがTOAのものですね。


    <Q. そんなTOAさんで稲畑さんご自身はどのようなことをされてきたのでしょうか>
    基本的には、これまでずっと全国各地で営業をしてきました。ただ途中からは、企業のアライアンスを推進する営業もしており、個人としては鉄道をはじめとした交通系の企業さんとのコラボレーションを実現した実績があります。あとはコラボレーションの形としてOEM(相手先ブランド生産)の受託なども担当をしていました。

    そういった意味ではメーカー間でのコラボレーション実務の経験が長いとも言えますね。これからの世の中、一社単独では成長が望めないなかで個人的には色々な企業とのコラボレーションを進めていきたいと考えており、これまでの経験を活かしてpoint0 にも会社の旗振り役として携わらせていただきました。


    <Q. point 0に参画する経緯はなんだったのでしょうか?>
    ダイキン工業さんが2018年に出したCresnect(クレスネクト)の初期構想のプレスリリースを見て、空間に関する新しい事業だと知ったときに、これはTOAも絶対に入るべきだと思ったのが最初のきっかけです。その後何度も参画への熱意を伝えた結果、参画させていただくことになりました。この時に石原さん(現point0代表)にも強く共感をしていただいたのが、やはり我々のコアコンピンタンスである「音の報せる力」でした。実際に参画が決まってからもpoint0の各社から音で面白いことを一緒にしていきたいとお声をかけていただいているので、ありがたいなと思っています。


    <Q. 実際にpoint 0ではどのような技術が使われているのでしょうか。>
    我々は音を鳴らしわける技術を持っていて、今回point 0で導入しているスピーカーも一個一個別々の音を流せるようになっています。point 0の大事なコンセプトが空間のパーソナラズであるように、音量や音質、コンテンツも含めてその場所ごとに合わせた音の空間を提供したり、必要な情報を必要とする人だけに届けることができるようにしています。


    <Q. point 0のひとつの特徴でもある鳥のさえずり音についてもお聞かせください。こちらはもともとあった音源なのでしょうか。>
    いいえ、実は今回この音を北海道まで録りに行っています(笑)
    正直に言うと、初めはどんな音を流すのか全く決まっておらず、そのなかで空間の緑に合わせた自然を感じられるような音にしてほしいという意見がpoint 0内で出てきたのが制作のきっかけです。
    ただ鳥のさえずりや川のせせらぎといった環境音は意外と既製品ではなかったので、今回自分たちで録りにいってしまおうということで、チームの一人が札幌からほど近い定山渓の山奥に早朝に行き、この音を録って来ました。


    <それはすごいですね(笑) 実際に収録されているのは何の音なのでしょうか?>
    鳥のさえずりと川のせせらぎ、この2つですね。
    鳥のさえずりは人々に安心感を与える効果があり、川のせせらぎはよく聞くとノイズにしか聞こえなかったりもするのですが、実はこれがマスキング効果を生んでいます。
    こういった開かれた空間で打ち合わせをしていると周囲の音が気になるときがあると思いますが、ここでは川のせせらぎがいい意味の雑音の役目を果たし、会話に集中できるようになっています。

    実は無音空間は結構ストレスを感じる原因になると言われているんですね。実際にpoint 0でも20時に音が止まるのですが、私もやはりどこかで気持ち悪さを感じたりします。
    こういった音に対する人の心理的反応のエビデンスもpoint 0で取っていけたら面白いなと思っています。


    <Q. こういったオフィス空間の音のコンテンツもこれまでTOAさんでは制作をされてきたのでしょうか?>
    音のコンテンツは普段から制作をしているのですが、オフィスの音でいうと20年前に一度取り組んだのが最後になります。
    当時は空間づくりが今のように流行りになっていて、その時に我々も色々とコンテンツを制作していました。ただその流行りも一過性ですぐに終わってしまったんですよね。
    でもその当時の経験があったことで、今回社内で色々とアドバイスをもらうことができました。

    今後社会的に働き方改革が進んで行くなかで、オフィス空間の音を見直すところも多く出てくると思うのですが、一方でオフィス空間のために作られた音はまだ世の中にそこまでないので、今後はこういったコンテンツ制作にも力を入れていければと考えています。


    <今後point 0でも様々な音を流していく予定なのでしょうか?>
    現在アーティストの方にご協力いただき、オフィス向けの音楽を作っている段階でして、すでにデモの音源もできています。
    実は先ほどからその音源を流していたのですが、気づかなかったですか?

    <え。すみません、気づきませんでした。>
    小さく流していました笑
    でも環境音は無駄に意識させない方がいいので、これでいいんです。
     
    あとは会議室のなかの音もシチュエーションによって変えた方がいい時もあると思うので、その場に合わせた音源づくりも目指していければと考えています。


    <Q. コンテンツ作りの他に今後取り組んでいくことはありますか?>
    色々な設備とセンサーの連動も進めていければと考えています。
    例えば、パナソニックさんの位置情報とレコメンドを連携して、人の好みの空間を音響面でも作っていきたいですね。
    その時に音のコンテンツだけを変えるのではなく、音量や音質も無意識のうちに人に影響をしていると思うので、そこを変えた結果実際にどのような効果が出るかは気になります。

    あとは、データの可視化という言葉があると思うのですが、我々が目指していることの一つがデータの「可聴化」でして、例えば外の天気や時間と連動して室内の音を変えることで利用者に色々な情報を伝えていければと考えています。


    <point0 で色々な音を聴けるのを楽しみにしています!最後にpoint 0を利用者にメッセージをお願いできますか。>
    「音の報せる力」という言葉を何度も使ってきましたが、「音の報せる力」には大きく4つの要素があると考えております。
    一つは、意識していない人にも音を伝えられること。目覚まし時計の音や火災報知器の音がこれにあたりますね。
    次に、リアルタイム性があること。緊急時に警報が鳴るのも、音にはリアルタイム性があるからなんですね。
    また音は、同時に複数の人に情報を伝えることができます。
    そして最後に、人は音を使うことで、生身の状態で、すなわちペンやデバイスを持たずとも、情報を伝達することができます。

    聞いてしまえば、当たり前のことかと思われるかもしれませんが、普段これを意識している人はおそらく誰もいないので、今回の話やpoint 0を利用することを通して、「音って大事なんだな」とまずは皆様に知っていただきたいですね。
    また、この4つの力を価値として最大化していくことが、我々がpoint 0に参画している最大の目的でもあるので、point 0を利用するなかで音に対して気づいたことやアイディアがあれば、どんどん教えていただけると嬉しいです。


    <ありがとうございました!>